お店や旅館では目にするものの、自宅で使おうと思うとちょっと大変そうなイメージをもたれがちな南部鉄瓶。そのお値段もそうですが、もともとお茶の道具から発展したという歴史や、職人技で作りこまれるというイメージからそう思われるのかもしれません。
でも思い切って使ってみれば、そんな心配などどこへやら。沸かしてふたを開けてほったらかし。手入れらしい手入れなどしなくても、毎日けなげにおいしいお湯を沸かしてくれます。
家にひとつあるだけで、重厚かつ繊細なデザインで場を引き締めてくれる。使っても、置いておいても味深い。そんな南部鉄器の鉄瓶を7年間使ってきた感想をまとめてみたいと思います。
南部鉄器鉄瓶を7年使ってみて
水分を摂るようになった
僕はそれほど「水」を飲むという行為が好きではなく、飲むとすればお茶が好きでした。といってもお茶を淹れるにはお湯を沸かさなければならないし、いつもペットボトルを買っていては不経済。なので仕事中以外は意識して水分を摂る、ということはしていませんでした。
ですがこの鉄瓶を使いはじめて、驚くほど水分を摂取するように。何しろ沸かしたお湯がおいしいので、白湯や湯冷ましを無意識のうちによく飲むようになりました。
それの何がいいのか?と聞かれれば、鉄瓶で沸かしたお湯の効果を具体的に挙げることも、書くこともできません。その点は専門家にお任せしたいと思います。でも、水分不足、脱水症状の危険性は明らか。それが未然に防げるだけでも、僕にとってはとてもありがたいことでした。
飲み物への出費が減った
鉄瓶を買った当時、僕は駅員さんをしていました。1泊2日の泊まり勤務、外での作業もあるので水分補給は大事。ということで2ℓのペットボトルを出番のたびに購入。その他に、気分転換のコーヒーも。すると毎日200円を10出番、月に2,000円以上の出費に。意外とこれ、自分的に地味に無駄な出費だと思っていたのです。
ですが鉄瓶を使いはじめてからというもの、白湯がおいしいのでタンブラーに入れて持っていくように。鉄瓶のお湯で淹れたコーヒーもおいしいので、それもタンブラーで持参。特に節約のために始めたわけではありませんが、日々の習慣が無駄な出費を抑えてくれました。これはまさに一石二鳥です。
沸かす時間にゆとりが生まれる
それまで、お湯を使いたいときは電気ケトルでその都度沸かしていました。たしかに短時間でお湯が沸くのは、本当に便利。その便利さ、手軽さにおいては鉄瓶に勝ち目はありません。
水温や火力、鉄瓶の容量にもよりますが、僕の使い方では沸騰するまで約20分。その時間をどう感じるかによって、鉄瓶に向く人、不向きな人に分かれるかもしれません。
使いはじめるまで、僕もそのどちらか分かりませんでした。ただ幸いにして、僕はその時間を好きになることができました。
水を汲むときの鋳鉄の手触り、気泡が出はじめた時のかすかな音。ふたの隙間からふわりとのぼる湯気に、沸騰した時の心地よい音色。お湯が沸くまでの一連の変遷に、無機質なはずの鉄なのになぜか温かみを感じてしまうのです。
今では他の作業をしながら鉄瓶を電気コンロにかけ、その様子からあとどれくらいで沸くかが目や耳、そして勘で分かるようになりました。その感覚は、なんとなく鉄瓶と会話しているよう。色々と忙しい日常の中で、そんな一見無駄な時間が、ある種のゆとりになってくれています。
★しまちゅう愛用
及源(南部盛栄堂)の鉄瓶を探す
楽天市場 amazon
意外とほったらかしで大丈夫!
これはお手入れの記事でも書きましたが、本当にお手入れらしいお手入れや片付けがいらないのです。こればかりは、本当に使ってみてびっくり。こんなに手間がかからないなんて、事前の印象からは想像もしていませんでした。
その大前提としては、水以外のものを入れない、ということ。湯沸かしだけに使っていれば汚れることもなく、必然的に洗う必要もでてきません。南部鉄瓶の内部は、とても繊細。だからこそ、あれこれ気にせず放置するくらいの距離感がいいのかもしれません。
部屋に置いておける
大きなやかんなどは、キッチンや棚に放置していると雑然とした印象を与えがち。ですがその形状や大きさから、しまう場所も意外ととってしまう。さらに沸かすときに、わざわざ取り出さなければいけない。僕はそこで、お湯との距離が開いてしまいました。
ですが鉄瓶なら、その点も心配なし。華美な装飾を取り払った機能美、それでいてフォルムや紋様に込められた職人技と美意識。歴史の深い南部鉄器には、そんな無駄のない美が秘められています。
これは僕の愛用の鉄瓶。どの角度から見ても丸く見えるようになっており、角度ごとに違う曲線美をみせるように計算されたデザインが気に入りました。紋様も、糸目という繊細なライン。下半分は鉄鋳物らしいザラザラとした肌をもち、小さな体に南部鉄器の世界観が凝縮されています。
他にも伝統のアラレというぽつぽつや、花や亀甲、雲など様々なデザインが。探し始めたらきりがないほど、鉄瓶は豊かな個性に溢れています。
そこが大事なポイント。純和風のものばかりではなく、モダンなものまで豊富なデザインがラインナップ。部屋の雰囲気や自分の好みに合わせて選ぶことができるのです。
基本的には、鉄瓶は鉄黒色。空間を引き締めつつ主張しすぎないその色だからこそ、目障り感なく飽きずに見ていられるのでしょう。そしてその重厚な雰囲気の中に施された、繊細な紋様。派手でも華美でもありませんが、控えめながらそこには職人の技を感じさせる美しさが漂います。
こんな特長を兼ね備えた鉄瓶だからこそ、出しっぱなしにしていても邪魔には見えない。単なる調理器具とは一線を画す機能美が、部屋をより落ち着く場所にしてくれるのかもしれません。
検索すると、丁寧なくらしや育てるといった難しそうなワードが並ぶ南部鉄瓶。そこに注力することももちろん暮らしを豊かにするのかもしれませんが、僕にとってはほったらかしでいいという距離感がものすごく心地良い。
ゆっくりお湯を沸かし、立ちのぼる湯気を眺め、あとは洗ったりなどせず放置して乾かすだけ。こんなに手間がかからないのに、ホッとひと息つかせてくれる。そんな南部鉄器の鉄瓶のある生活、本当にいいものですよ。
コメント